2014年12月18日木曜日

楓の木

この家を借りることに決めたのは立地と家屋の条件が満たされたからであって、庭はおまけみたいなもの。

裏庭は Trixieが走り回れるくらい広くてフェンスが張り巡らされてる事が条件で。


なので裏庭の大きな楓の木の存在はそれほど重要事項では無かったんだけど。


それでも春になって芝生の緑が広がり、楓の木も徐々に新緑の葉をつけて行くと、その鮮やかな眩しさは目を見張るほどに眩しくて。


樹齢が何十年もありそうな大木の足元にはホスタをはじめ低い草花が生い茂り、陽の光を浴びると何だか神々しい雰囲気を醸し出す空間には、ひょっとして妖精が密かに飛び交ってるのではないか?なんて空想くらい夢のように綺麗で。


家の中で家事の合間にふと窓の外を見ると、楓の木はいつもそこにあって
「大きな樹のある風景っていいものだなぁ〜」
と、いつも実感してた。

夏の午後には生い茂った葉が影が作り、散歩から帰った Davidと Trixieは暫くの間、裏庭で過ごし、芝生の上に寝転んでたり。


裏庭に出した椅子に座って何時間でも本を読んだりとか。

秋になって色づいた葉っぱが地面に落ちた様子が綺麗で、赤や黄色に染まった楓の葉っぱを何枚も拾い集めてみたり。


樹の幹の真ん中の上の方に穴が開いていて、そこからいつもリスが出たり入ったりを繰り返すので、Trixieはやきもきと落ち着かず穴に向かって吠えたり、まるで木登りでもするかのように立ち上がって木に飛び付いたりするから、そんな光景を遠くから眺めてるのが楽しかったりもして。


10月になって木枯らしが吹く頃、小さなストームがあって、楓の大木から小さく古くなってたらしい枝がポキリと折れて屋根をかすめて落ちた。

小さな枝ではあったけれど、落ちた勢いで雨樋に凹みが出来た。


雨樋はそっくり新しいものと交換されて、そして、楓の木は切り倒されることが決まってしまった。

多分、古くなって健康状態が懸念され、家屋に被害が及ぶ危険性を考慮したのだろうとは思いつつ、問題のありそうな枝を切り落とすだけで、本体の部分を維持する事は可能ではないのか?

愛着の湧いた木を守る方法は無いのか?

どうしても納得が行かず歯痒いまま、単なるテナントとしては何の権利も無く。

この家のオーナーから指示を受け、管理会社から依頼された業者が今朝、早くから何台もの大きなトラックでやって来ると、手早く作業に取り掛かり。


−10℃の外気温の中、5〜6人の作業員が仕事を分担して次々と高い所から木の枝を切り落として行った。

電動ノコギリの音と、時折、地面に叩き付けて落ちる木の轟音と。

あの神々しく美しかった楓の木は見る影もなく、ほんの数時間で裸になった。


いつの間にか降り出した雪が吹き付けて、まるで楓の木が泣いてるみたいに。

夕暮れ時になって裏庭を見ると、リスの巣穴があった大きな大木は既にその体を切り刻まれて地面の上に横たわっていた。


その光景を目にしたら、自然と涙が溢れて来た。

たかが一本の樹とは言え、自然界で命あるものがその終わりを遂げる姿を目撃するのは辛い。

樹齢60年だか70年だか、明らかに私よりも長く生きて来たであろうに。

そう考えると、何だかまるで老人の死に向かい合ってるような気さえして。


私たち家族にとって、たった1年の間でしか知り得なかった楓の木ではあったけれど、この木が無くなってしまった今、私たちの裏庭は余りにも空っぽで平坦で、何の面白味も無いただの長方形の空間になってしまった。

来年再び春が来て、夏が来ても、もうあの楓の木は無いし、風に揺れる枝も葉も、芝生の上に出来る影も無いんだと思うと、もう本当に寂しくて哀しくて、また泣けてしまう。

木を失ってこんなに寂しくなるだなんて、今まで知らなかったよ。


4 件のコメント:

まゆみ さんのコメント...

この地でず~っと風雪に耐えながら、春には
柔らかい新芽を出し、秋には美しい紅色のドレスを纏い生きてきた楓。ここに暮らす人々や多くの動物とも触れあってきたことでしょう。

歳とともに、植物の生命力に度々驚かされることがあります。

こんな姿になってしまうと、泣けてくるのも
解る気がしますよ。

それでもまゆみさんがこうしてレンズにおさめてきた四季折々の姿は、これからも生きている人々の思い出の中で生き続けるのですよね。最後にこの楓もまゆみさん一家に出会えて幸せだったと思いますよ。

yana さんのコメント...

自分の家なら何とか助ける方法を考えられるでしょうが・・・悲しいですね。
木はまゆみさんに沢山お写真を撮ってもらって、最後は幸せだったんじゃないかしら。
ニューヨークやフイラのお家にも大きな木があり、日本では珍しいリスやラクーンやカーデイナルを眺めて生活をするのは本当にここちよかったですよ。
最近、近所では古いお宅が土地を手放すと20坪くらいのお家が5.6件建ち、手入れされていたお庭の木が1っぽん残らず切り倒されるのをよく見かけ、空しくなります。大きな木一本分くらいの土地に小さな家なら一軒建ちそうですものね。お向かいの(ペコちゃんの不二屋さんの社長さんの)お宅にも見事な桜があり家からもお花見をさせていただいていたのですが数年前にマンションにするために切り倒されてしまいました。バス通りに面していたので、きっとたくさんの方ががっかりされたと思います。
シンボル的な木があるべき所にないのは本当にさみしいですね。

今日娘とスカイプしたのですが、今のところ去年のような寒さはないということでしたよ。お天気に恵まれますよう!!

Mayumi さんのコメント...

まゆみさん♪

私よりも素敵な描写をして頂き、「そうそう、そうなのよ〜」と感動してしまいました。

頂いたコメントに慰められました。
ありがとうございます♪

Mayumi さんのコメント...

yanaさん♪

ありがとうございます。
日本に比べると、身近なところに大きな樹があり、自然がある環境に暮らせる恩恵は思っている以上に大きいものですね。

日本、特に都心での家の建坪の小ささには、時々驚かされますよね。
そして、その値段には更に驚かされますが。(笑
(北米なら豪邸が買える値段だわ。。。とか)

あら〜、桜の木は尚更、残念ですね。
季節毎、きっと観る人を楽しませていたでしょうに。

お陰さまで天候に恵まれたドライヴでした。
今年のクリスマスは場所によっては雪のない「茶色のクリスマス」になる可能性もありそうです。。。