ミネソタに引っ越すことが決まった時、家探しをした。
探す基準は色々とあって、でも一番重要なことは Davidの仕事への通勤圏であることと、あとは子供たちの転校先の高校の学校区であることの二つ。
カナダに暮らしながら見知らぬ土地のアメリカに家を買うのは容易でなく。
気に入って購入の申込みをした家は、敷地内に池のある白いサイディングで、車3台分のガレージのある比較的、大きな家だったんだけど、敢え無く別の買い主の手に渡ってしまい、かなり落胆した。
その後、気に入った物件が見つからず、取り敢えず借家住まいの契約を半年だけして、その間に家探しをするって計画だった。
がしかし、一旦暮らし始めてみると、大規模な引越しを再びするのが億劫になり。
物件としてはユニーク過ぎるから、自分では絶対に買わないだろうと思うような面白い建築のこの家に住める楽しさと、所詮は自分の家じゃないから少しくらい問題があっても苦にならない気安さと、面倒な問題は全て管理会社に連絡して解決して貰える利点もあり、割りと快適に暮らして3年も経ってしまった。
なので私の中では「家を買う」ってことはすっかり忘れてたんだけど。
Davidと Erikaは意外にもそうではなかったようで。
色々と制約のある借家暮らしに嫌気がさして来ていたらしい。
「面白そうな物件が売りに出てるんだけど、見に行かない?」
と、ある日突然 Davidに言われて驚く私の傍らで、乗り気の Erikaにもびっくり。
エージェントに連絡して、急遽3人で土曜日の朝に物件を見に行く手はずになった。
何事にも "easygoing"の Kaitoは家で朝寝坊を楽しむと言う選択で。
物件はいわゆる "Fixer Upper"と呼ばれる、修繕を要するから格安で売りますからお好きなように完成させて下さい♪ってなパターンの家。
北米ではちょっとした内装工事は素人がやってしまうし、プロと素人の境界線も曖昧なくらいに素晴らしい仕事をやってのけてしまう素人も少なくない。
Davidもその類いで完璧主義なところのある彼はきっちりとした仕事をするし、電気や給排水もこなす内装工事全般はある意味、彼の趣味の一つと言えるかも。
そして確かに借家暮らしでは、それがほとんど一切出来ない現実がある。
だからこの辺でそろそろちょっとした家を買って、週末の度に少しずつあちこち修繕して理想の家へと形作って行くような生活が欲しいのかも、ってのも解る。
私自身は何の予備知識も無しに現場にのこのこと付いて行ったのではあるけれど、思い掛けずに物件の外観は予想外に綺麗な感じだし、何と言っても自然公園や雑木林に近い閑静な場所ってのは理想的な立地条件で。
家屋が高台にあるので、スロープを上がるアクセスの雰囲気がいい感じだし、敷地もかなり広く、2台分のガレージもありな平屋建て(総地下を含めての2階建て)。
ま、家に足を踏み入れた段階で、買わないってことはほぼ決定したけれど。
投資目的でこの家を買った人が、内装工事をして高く売り出し利益をあげる計画だったらしいけれど、目算が狂ったらしく、諦めて手放すことにしただけあって、かなり大規模での工事を要するのは一目瞭然。
Davidが週末毎にコツコツと少しずつ手を加えて行くだけでは間に合いそうにない。
てか、そんな過程で、この状態のこの家に到底住めそうも無いくらいに酷い現状。
広さ的にはそこそこ問題がないとして、壁も床も総仕上げが必要だし、キッチンも浴室も取り壊して造作し直しを要する感じで、計算機を叩いて見ると、2000万円くらいで買って、(最低限でも)1500万円くらいの投資をするって感じ?
そして売値が3000万円そこそこだと、やっぱり損失が出るって感じなのかな。
いずれにしろ、放置された感のある家に特有の暗い雰囲気が漂って。
地下へ下りて探検するのはちょっとしたスリルを伴うって感じ。
誰も使ってない部屋のドアを開けたり、屋根裏部屋に上がる階段の先に広がる薄暗い空間を見ると、何とはなしの薄気味悪さみたいなものを感じて、そんな時はやっぱり色んなホラー映画の世界が脳裏を過り怖さに拍車を掛ける、ってのは定番。
そんな私に追い打ちを掛けるように、地下で荒れた様子のミニキッチンの奥の方で古めかしい冷蔵庫が鎮座してる図は、ちょっと完璧過ぎじゃない?と心の中で。
ちょっとちょっとぉ〜、何この古めかしい冷蔵庫。。。
余りにも雰囲気アリ過ぎなんですけどぉ〜、怖いよぉ〜。
そして私の脳裏で想像する冷蔵庫の中の様子は勿論。。。アレとかコレとか。
ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜。
もうね、絶対に開けて見たりなんか出来ないでしょう、これは。
とか思ってたんだけど、後で Davidが「開けて見たよ」ってので拍子抜け。
「空っぽだったよ」ってので安心したけど。
そして同様に大型の冷凍庫も地下室の空間に放置されてて。
ビビる私の目の前で Davidがドアをガバっと開けたら異臭が漂って来て気持ち悪くなりそうだったけど、これも単に放置された冷凍庫ならではの臭気だったらしい。
だから当然、David曰く「切断された頭部とか入ってないよ!」って。
そんな Davidは、引き続き薄暗い地下の部屋を偵察する私の背後で、突然ピアノの鍵盤をボロ〜ンと奏でるからもう完璧過ぎて「え、ここでピアノですか?」みたいに、笑ってしまった。
何でこんなところに?って感じで、埃を被って放置された古いピアノ。
参考資料として写真を撮りながら、妙な心霊写真みたいな映像になってたらどうしよう、、、ってのが不安だったけど。
カレッジで映像を学んでる Kaitoが泣いて喜びそうなくらい、その種類での映像を撮影するには打ってつけの物件。
売れる前に一日レンタルしてホラー映画の撮影すればいいのに。
久々に物件の内観をしながら、気楽な借家暮らしに慣れてしまった自分を実感。
再び家を持つことの煩わしさや、重くのしかかるであろう多くの責任に対する怖さ。
それにしても家を買うのは、結婚相手を見つけるのと似てると改めて思う。
この家ならばどんなリクスでも負うわ!ってくらいに好きな家を見つけないと。
そんな直ぐには現れないわよねぇ〜。